生活習慣を見直すことで、耳鳴りの9割は小さくできる
「耳鳴り・難聴を自力で治す最強辞典」から、埼玉医科大学客員教授・川越耳科学クリニック院長 坂田英明(さかたひであき)先生おすすめの方法を抜粋してご紹介します。専門はめまい、耳鳴り、難聴、いびき、睡眠時無呼吸。著書に『あきらめないで!耳鳴りは1分でよくなる』がある。
1、耳鳴りの正体は、内耳で生じる摩擦音
耳鳴りのつらさは、なった人でなければわかりません。
また、周囲の無理解が患者さんをさらに苦しめます。
私は、そういった行き場を失った数々の患者さんを目の当たりにして、耳鳴りの治療をライフワークにしようと考えるようになりました。
耳鳴りがなぜ起こるのか、そのメカニズムを知ると、それだけで耳鳴りは軽くなります。
私たちが聞いている音は、空気の振動です。
振動は外耳道(がいじどう)、中耳(ちゅうじ)を伝わり、内耳(ないじ)で電気信号に変わります。
そこから聴神経、脳幹(のうかん)を経て、大脳の聴覚野(ちょうかくや)で初めて音として認識されます。
そのどこかに異変が生じると、耳鳴りが始まります。
いちばん多いのが、内耳の障害です。
内耳の蝸牛(かぎゅう)で空気振動を電気信号に変えるのですが、その摩擦音が異常に強く聞こえると、耳鳴りとなって耳の中で響くのです。
なぜ、異常な摩擦音が聞こえるのでしょうか?それには内耳の血流が深く関係しています。
内耳の血管は、非常に微細な網のような血管(血管条)で、わずかなことで血流が滞ったり、途絶えたりすることがあります。
すると、内耳が正常に働くなり、有毛細胞の摩擦音を強く感じるのです。
また、血流が悪くなると有毛細胞に栄養や酸素が届かず、それにより異常な摩擦音が作り出されます。
こうしたことは聴覚機能を持つ人なら、誰の耳でも起こっています。
耳が聞こえるということは、耳鳴りもあるということで、どんな人にも耳鳴りはあるのです。
では、耳鳴りが聞こえる人と聞こえない人がいるのはなぜでしょうか?そこには、脳が関係しています
電気信号に変換された音が、脳幹→大脳・視覚野に届きます。その途中にある「海馬(かいば)」の感じ方が、人によって違うのです。
耳鳴りも同様で、にぎやかな中で気にならないのに、周りが静かになると、急に耳の中で音が鳴ったりします。
ずっと耳鳴りはあるのですが、脳での認知が違うために耳鳴りが聞こえたり、聞こえなかったりするのです。
2、耳鳴りを起こす8つの原因と対策
耳鳴りを起こす8つの原因と対策をご紹介します。耳鳴りを改善するために自分の生活習慣を知り、改善に努めましょう。
①顎関節症(がくかんせつしょう)
あごの周囲に、なんらかの異常が生じている状態のこと。顎関節症であごがずれると、頭を支える首の骨にゆがみが生じます。
それにより、血流が悪化し、痛みと共に内耳に過大な負担をかけます。
対策/顎関節症の治療とともに、口の中央にサージカルテープ(医療用補助テープ)を貼るなどして、鼻呼吸の習慣をつけるといいでしょう。
②内耳の異常興奮
耳鳴りは、内耳の有毛細胞が興奮して、異常音を発している状態です。
緑茶や紅茶、コーヒーを飲めば、カフェインでさらに興奮状態になります。
対策/カフェインを含まない飲み物に変えましょう。水は水道水より天然水を。
レモン汁とハチミツと水で「自家製レモネード」もお勧めです。
③化学物質の害
毛染め液の中には、有害な化学物質が多く含まれます。その1つがアニリン色素の誘導体です。
これは頭皮から脳に染み込み、耳や目の働きを司る前庭小脳(ぜんていしょうのう)に悪影響を及ぼします。
対策/毛染めには天然素材のヘナなどを活用しましょう。うるしアレルギーの場合は、海藻由来の染料にします。
④毛細血管の血行不良
内耳にはクモの巣のように細い血管が集まっています。タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮され、内耳への血液量と酸素供給を著しく減らし、耳鳴り発症の一因となります。
対策/タバコを吸いたくなったら、ゆっくり水を飲む、ガムを噛む、歯を磨くなどでリラックスする。喫煙者と一緒にお酒を飲まないなど。禁煙外来を訪ねるのも手です。
⑤薬物中毒・脳の劣化
農薬やシンナー、接着剤、塗料などの有機溶剤による中毒症状に、耳鳴りや頭痛、目のかすみなどがあります。長期になると小脳にも異常がでます。
多くの場合、耳鳴りなどの後遺症が残り、使用をやめても症状が進行します。
対策/有機溶剤を使用する際は、じゅうぶんに換気を行い、仕事で使う場合は、防塵マスクをし肌を隠す服装にします。
⑥音響外傷
音には「音圧」という圧力があり、イヤホン・ヘッドホンなどで、長時間大きな音で音楽を聴けば、音圧により耳の機能が傷付きます。
これを音響外傷といい、ゲームセンターやパチンコ店、ライブなども要注意です。
対策/音響外傷による耳鳴りは、治りにくい傾向があるので、耳に強い音圧を与えないよう注意し、仕事で騒音にさらされる人は、耳栓などの対策をしましょう。
⑦ヘルペスウィルス
耳鳴りのほか、耳痛や頭痛、口内炎を繰り返すなら、ヘルペスウィルスが関与しているかも。ヘルペス、帯状疱疹、水疱瘡などに感染し、免疫機能が落ちている時にウィルスが活性化します。
対策/頭痛・口内炎・耳鳴りが5日異常続く場合は、耳鼻咽喉科を受診して下さい。
⑧ストレス・生活の乱れ・睡眠障害
ストレスにより、交感神経が過剰に働くと、血液の循環が滞り、内耳や脳に負担をかけて耳鳴りを起こします。
耳鳴りの改善には心身をリラックスさせる副交感神経を優位にする必要があり。そのためには、質の良い睡眠が必要です。
対策/就寝の1時間前に入浴する、就寝の15分前にはスマホ・パソコン・テレビを見ない、12時前には寝る、決まった時間に起きるなど。1日3食をとることも大切です。
目指すのは「生活に支障のないくらいまで耳鳴りを小さくする」です。
原因を突き止め、適切な対応をとれば、ゼロにはできなくても、耳鳴りの9割は減らすことができるのです。